xTAPPを用いたシリコン結晶中ホウ素クラスターのXPS束縛エネルギーの第一原理計算 — 日本語
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xTAPPを用いたシリコン結晶中ホウ素クラスターのXPS束縛エネルギーの第一原理計算

慶大理工 山内 淳さん

シリコン(Si)を代表とする半導体をデバイスとして機能させるにはドーパントと呼ばれる不純物原子の導入が欠かせません。このドーパントの振る舞いについては、産業上の要請もあり、半世紀以上に渡って精力的に研究されてきていますが、原子レベルの知見については、未だ不明なことも多いのです。最も基本的な知見はドーパントの原子構造ですが、結晶中に存在するため直接観測することができず、様々な間接的な観測手段を使って測定しますが、測定結果の解釈には理論モデルによる解析が欠かせません。

最近では素子の微細化により高濃度のドーパント原子を導入することで、クラスターと呼ばれるドーパント原子の凝集が起こることが知られています。ここではSi結晶中のp型ドーパントとして知られるホウ素(B)クラスターのX線光電子分光(XPS)による実験と第一原理計算による解析を紹介します。XPSX線を試料に照射して放出される光電子の運動エネルギーから光エネルギーの元居た状態を調べるもので、クラスターのような格子欠陥の場合には内殻準位電子の束縛エネルギーの化学シフトを調べることになります。これに対応する第一原理計算手法として、screened core hole擬ポテンシャルを使った∆SCF法を用いています。

この系の理論計算上の難しさは束縛エネルギーの精度をいかに確保するかという点にあります。 実験と比較するためには0.1 eV程度の精度が要求されます。異なる構造は異なる電子配置をとるために静電ポテンシャルを変化させ、計算モデルのエネルギー原点に影響を与えるため、この影響を充分小さくしなければ精度が担保できません。そのためには大きな計算モデルが必要になります。結果としてSi結晶にして、512原子からなるモデルが必要でした。

図にイオン注入法で B原子を導入したばかりのSi基板のXPSの測定値ならびに計算値を示します。曲線で表されているのが測定値と、それをガウシアンで分解したいくつかのピークです。縦線は、置換配置B<001> B-Si、八面体B6、二十面体B12のモデルについて計算したXPS値です。置換配置Bを基準値としてそれからの相対値を議論しています。実際には、この他にも多数の、実験的、理論的に存在が期待されているモデルについて計算して、形成エネルギーを考慮して、 実験ピークを説明するものを図に示しています。この結果は二十面体B12ならびに<001> B-Si が存在することを示唆しています。二十面体B12ならびに八面体B6は、幾何学的に面白い構造で、一見するとありそうにないように見えるかもしれませんが、これらはBの単体、化合物として実際に存在する構成ユニットなのです。Bが小さい原子であるためにこのような形態をとります。詳しくは日本語の参考文献を参照してください。

xTAPPは中小型の計算機システムで高効率な計算ができることを目標の一つとして開発されている平面波基底の第一原理計算コードです。具体例をあげると、Xeon E5-2697(2.7GHz,12core)2CPU搭載したPC1台で、二十面体B12を含む系でSCF計算が収束し力の計算が終わるまでの時間は、519原子系(平面波基底数:148789)で77 分、1007原子系(平面波基底数:290363)で428分でした。Sample k点はΓ点のみです。

図:XPS測定値と理論値。曲線は実験的に得られたスペクトルとそれをガウシアンに分解したもの(I. Mizushima, et al. Appl. Phys. Lett. 63 373 (1993)より)。縦線は理論モデルから計算されたXPS束縛エネルギーの計算値。

[1] J. Yamauchi, Y. Yoshimoto, and Y. Suwa: Appl. Phys. Lett. 99 191901 (2011).

[2] J. Yamauchi, Y. Yoshimoto, and Y. Suwa: J. Appl. Phys. 119, 175704 (2016).

[3] 山内 淳、固体物理 48 215 (2013).

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