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キーワード解説

イジング模型 (Ising model)

強磁性体における常磁性・強磁性相転移を記述するために導入された、統計力学で最も基本的な模型の一つ。 ±1 の2値を取る「スピン」を格子状に並べて、隣り合う2つのスピン間にはその大きさがスピン値の組み合わせに依存するような相互作用を考える。スピンが互いに同じ値を取るとエネルギーが下がるような相互作用(強磁性相互作用)がある時には、絶対零度ではすべてのスピンが同じ値をとる強磁性状態(秩序相)になる。一方で高温極限ではエントロピーが大きい状態、すなわちすべてのスピンが互いに独立に、ばらばらな値を取るような無秩序相(常磁性状態)となる。ある特定の温度で秩序相と無秩序相とが切り替わる現象が、有限温度相転移である。また、相互作用の符号や大きさをスピン対ごとにランダムにすることで、基底状態を求めることが困難になったり、熱緩和時間が非常に長くなるスピングラス状態が現れたりと、数値計算であっても解くことが難しくなる。イジング模型は古典統計力学の模型であるが、スピンを反転させる外場である横磁場を導入することで量子模型(横磁場イジング模型)にすることができ、横磁場の強さによって絶対零度でも強磁性・常磁性相転移を起こすことができる(量子相転移)。このように、単純ながら様々な現象が起きるため、古典統計力学、量子統計力学だけではなく、情報統計理論や量子情報理論でも重要な模型である。

関連ソフトウェア: ALPS, スピングラスサーバー

関連キーワードハイゼンベルグ模型シミュレーテッドアニーリング、量子アニーリング、ボルツマン機械


X線分光解析

X線を物質に照射すると、物質に含まれる原子の内殻励起に起因する元素に特有なエネルギーでX線吸収が起こる。このX線吸収端における吸収スペクトルの微細構造をXAFS(X-ray Absorption Fine Structure, X線吸収微細構造)と呼び、これを解析することで原子の局所構造に関する情報を得ることができる。X線分光解析にあたって、着目する原子および隣接する原子の電子状態を計算し、実験と比較することが必要となる。X線分光解析用のアプリ(FEFF, Demeter, Missingなど)には電子状態計算を行う機能がついており、実験との比較を簡単に行うことができる。また、X線吸収スペクトルを計算する機能が付属している第一原理計算アプリ(WIEN2k, Exciting, Quantum ESPRESSO, ABINITT, AkaiKKR, SPRKKR, GPAWなど)を用いることで、より精度の高い分光解析を行うことも可能である。

関連ソフトウェア: WIEN2k, Exciting, Quantum ESPRESSO, ABINIT, AkaiKKR, SPRKKR, GPAW

 

拡散モンテカルロ法

量子モンテカルロ (QMC) 法に基づいた手法である。シュレディンガー方程式の解における虚時間発展の演算子は、基底状態への射影演算子として働く。拡散モンテカルロ法では,それぞれ重みをもつ,多数のウォーカーを用意し,基底波動関数からなる空間内でランダムウォークさせる.その際,ウォーカーの分布関数が虚数時間依存のシュレーディンガー方程式の時間発展を満たすようにランダムウォークの規則を選ぶ.初期分布を求める際など,他の変分原理に基づく計算法と合わせて使われることが多い.アプリケーションとしては、CASINO や QWalk などがある。

関連キーワード: 量子モンテカルロ法

関連ソフトウェア: CASINO, QWalk

 

擬ポテンシャル法

内殻電子軌道は化学結合にほとんど寄与しないことから、その影響を有効的なポテンシャル(擬ポテンシャル)に押し込めることで、計算量を減らすことができる。これによって、比較的緩やかに空間変化する外殻軌道のみを考慮すればよくなり、特に平面波基底を用いる場合に基底関数系の大きさを抑えることができる。

関連キーワード:平面波基底

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経路積分モンテカルロ法

虚時間経路積分表示にもとづき、d次元の量子多体系をd+1次元の古典系として表現した上でマルコフ連鎖モンテカルロ計算を実行するシミュレーション手法。世界線モンテカルロ法とも呼ばれる。古典系では粒子の位置やスピン配位からそのボルツマン重みが簡単に計算できるが、量子系では演算子の非可換性のため厳密な計算には指数関数的に大きなコストが生じる。そこで、経路積分モンテカルロ法では、鈴木-Trotter分解や高温展開などを用いて虚時間軸を導入し、一次元だけ次元の高い古典系として表現する。経路積分モンテカルロ法は、横磁場イジング模型、量子ハイゼンベルグ模型、ハバード模型などの強相関量子格子模型や、He4ボーズ粒子系など、様々な系に対して用いられている。経路積分モンテカルロ法は原理的にはどのような量子系に対しても適用可能である。しかし、競合する相互作用を持つハイゼンベルグ模型やフェルミオン系では、古典系として表現したときの重みに負のものが現れ、大きな系や低温において平均値が収束しなくなる事態が生じる。この問題は負符号問題と呼ばれ、量子モンテカルロ法を量子多体系に適用する上で最も大きな障害となっている。

関連キーワード: イジング模型ハイゼンベルグ模型ハバード模型

関連ソフトウェア: ALPS, DSQSS

 

 

KKR法

第一原理計算手法の一つ。手法名は開発者のKorringa, Kohn, Rostokerの頭文字からとられている。有効ポテンシャルによる電子の多重散乱の効果をグリーン関数によって記述し、これを数値計算によって求める方法である。密度汎関数法と組み合わせることにより、高速な電子状態計算を行うことができるほか、CPAの方法を組み合わせて不純物問題や不規則合金の電子状態の計算にも応用できるという特色がある。原理的には密度汎関数法に関連する様々な手法が適用できるが、公開されているパッケージでは擬ポテンシャル近似およびマフィンティンポテンシャルによるモデル化を採用している。

関連キーワード:コヒーレントポテンシャル近似(CPA)

関連ソフトウェア: AkaiKKRSPRKKR

 

原子局在基底・ガウシアン基底

波動関数を原子核周辺に局在した関数の線形結合で表現する手法。数値基底やガウス関数などが用いられる。原子の波動関数に似た形をしているため、平面波基底に比べてかなり小さな基底関数系でも分子や凝縮系の波動関数をよく表現できる。一般的に、原子局在基底は互いに直交しないので、多く取れば取るほど精度が良くなるというものではないが、近年では、過完備性を避けながら局在基底関数を構成する方法が多くの第一原理計算アプリケーションで実装されている。原子から離れた場所に電子が存在する場合(エレクトライドやfloating状態など)の取り扱いについては、空原子基底の配置などによって対応可能であるが、その配置方法については系ごとにユーザーが検討する必要がある。また、分子動力学計算やnudged elastic band法などによるダイナミクスの計算を行う際には、空原子基底の位置の制御が難しい場合もある。

関連キーワード: 平面波基底

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厳密対角化

量子多体系を記述するハミルトニアンを行列表示して、その行列を対角化して固有値・固有ベクトルを求めることで量子多体系の性質を求める手法。近似を用いることがないため、有限サイズではあるものの、一番信頼のできる数値計算手法として幅広く用いられている。しかし、波動関数の次元は系のサイズに対して指数関数的に増大することから、十数サイト程度でも、行列の全固有値・全固有ベクトルを求める完全対角化は不可能となり、低励起状態のみを求めるLanczos法などの大規模行列に対する解法を使う必要がある。Lanczos法を用いた量子多体系に対する大規模行列の厳密対角化を行なう、先駆的なパッケージとしてTITPACK, KobePack, SpinPack などがある。また、ALPSでは様々な模型に対して、完全対角化を行なうことが可能である。最近では、一般的なハミルトニアンに対して、大規模並列に対応したソフトウェアHΦが開発されている。

関連ソフトウェア: TITPACK, KobePack, SpinPack, ALPS, Hphi, rokko

関連キーワード: Lanczos法、Krylov部分空間ハイゼンベルグ模型ハバード模型

 

Kohn-Sham法

密度汎関数理論に基づく、現在もっとも日常的に利用されている手法。密度汎関数理論において、電子系のエネルギー汎関数を計算する際に、特に運動エネルギーの近似が難しかったために導入された。全エネルギーの最大部分を占める運動エネルギーを、実際の系と同じ電子密度を与える相互作用しない仮想参照系の運動エネルギーで近似した。そして、残りの相互作用エネルギーを交換相関エネルギー汎関数に押し込めることで、多体問題を有効ポテンシャル中の一電子シュレディンガー方程式(Kohn-Sham方程式)を解くことに帰着させた。

関連キーワード:密度汎関数法

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古典分子動力学法

原子や分子を古典的な粒子と考え、ニュートン方程式を解くことによりその動きをシミュレーションする手法。微分方程式の解法としては、ルンゲ・クッタ法や速度Verlet法などの積分法が用いられる。エネルギー一定・体積一定のシミュレーションだけでなく、例えば能勢-Hooverの熱浴を導入することにより温度一定の条件でシミュレーションを行うことができる。同様に、圧力一定や化学ポテンシャル一定など、様々なアンサンブルでの計算が可能である。粒子間のポテンシャルエネルギーは力場と呼ばれる。力場についても、剛体球ポテンシャルやレナードジョーンズポテンシャルのような単純なものから、クーロン相互作用のように長距離に及ぶもの、第一原理計算の結果をフィッティングすることにより得られた非常に高精度なものなど、研究の目的や対象に応じて、種々様々な力場が用いられる。

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コヒーレント・ポテンシャル近似(CPA)

不規則系を取り扱う代表的な近似理論。乱れのある系や合金系などの不規則系の電子状態計算では、完全結晶を前提とするバンド理論による記述が難しくなるが、CPA近似では原子組成の不規則性の影響を1サイト近似の範囲内で自己完結的に取り扱うことで、現実の合金系の性質を定量的に記述することに成功している。第一原理計算手法の一つであるKKR法に組み込まれて不規則系の電子状態計算に利用されるなど、固体物理学のさまざまな問題に活用されている。

関連キーワード:KKR法

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GW近似

多電子系の準粒子エネルギーを摂動論的に求める手法の1つ。多電子系の自己エネルギーを1粒子グリーン関数Gと遮蔽クーロン相互作用Wで近似する。これによって、光電子分光スペクトルなどが、局所密度近似や一般化勾配近似を用いたKohn-Sham法に比べてかなり精度良く求まり、実験との定量的な比較が可能になってきている。ほとんどの計算コードでは、GW近似はKohn-Sham波動関数に対する摂動の形で実装されている。

関連キーワード:Kohn-Sham法

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時間依存密度汎関数法(TDDFT)

時間依存する多電子系の電子状態を密度汎関数法の枠組で取り扱う手法。通常の密度汎関数法では、基底状態のエネルギーが電子密度の汎関数で与えられることを前提とするが、これを時間依存する系へと拡張して、時間依存する電子密度についての汎関数を構成することができる(ルンゲ-グロスの定理)。この汎関数から導かれる方程式を解くことにより、分子や固体の電子状態の時間発展を高速に計算することができる。強い外場下での非線形応答を議論できることが特徴であるが、系の線形応答(光学応答や誘電応答など)を計算する際にも用いられる。多くの第一原理計・量子化学パッケージでサポートされており、代表的なものとしてVASP, CASTEP, ABINIT, QUANTUM ESPRESSO, PHASE, Gaussian, GAMESS-USなどを挙げることができる。

関連キーワード:密度汎関数法

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実行ジョブ管理

スパコンなどの大規模共用計算機では、ユーザは使いたい計算機資源(計算機の数と時間)を要求し、ジョブ管理システムから動的に割り当てられた資源を使って計算(一般にジョブと呼ぶ)を行う。この一連の流れを補助するために、自動で資源申請を行ったり、割り当てられた資源を自動的にうまく使ったり(負荷分散・ロードバランス)、計算の途中経過を保存・再開したり(チェックポイント機能)、計算結果を入力とともに保存・管理・整形したりする機能を持ったツール・ライブラリが存在し、本サイトではこうした機能を「実行ジョブ管理」と称する。

関連ソフトウェア: OACIS, ALPS library, ALPScore

 


テンソルネットワーク法

テンソルネットワーク法は,離散空間量子多体系の基底状態での物理量期待値を求めるための方法で,テンソルネットワーク状態(TNS)を変分関数とする変分法である.テンソルネットワーク状態とは,適当な直交基底系で状態を展開したときの展開係数が(通常系の自由度数に比例する個数の)テンソルの積であらわされるような状態のことである.用いられるテンソルが3階であるときが密度行列繰り込み群に対応する.密度行列繰り込み群の場合と同様,テンソルの次元を大きくすると任意の量子状態が表現可能になる.ネットワークの構造,テンソルの最適化方法,積の縮約方法のそれぞれについて複数の選択肢があり,テンソルネットワーク法はそれらの総称である.

関連ソフトウェア:ALPSITensor

関連キーワード: 密度行列繰り込み群,テンソル繰り込み群,MERA,PEPS

関連サイト: TNQMP2016 (2016年に物性研で行われたテンソルネットワークの国際ワークショップの講義ビデオ)

 


 


動的平均場近似

強相関量子格子模型を解く際に、空間相関を無視するものの虚時間方向の相関(動的相関)を精度良く取り込む手法。空間相関が無視できる無限次元、またはそれと等価なベーテ格子などで厳密な計算手法となっている。この手法では、元の格子模型を中心サイト(不純物)と周辺サイト(有効媒質)とに分けて、有効媒質中の不純物問題(アンダーソン模型)に焼き直す。この不純物問題を、有効媒質のグリーン関数・自己エネルギーが元の格子模型のグリーン関数・自己エネルギーに等しいとする条件(自己無撞着方程式)のもとで解くことで、元の格子模型のグリーン関数を含む様々な物理量を求めることができる。不純物問題を解くために厳密対角化、数値繰り込み群法、量子モンテカルロ法などが用いられている。空間相関を取り込むための拡張が盛んに行われている。

関連キーワード: 厳密対角化量子モンテカルロ法

関連ソフトウェアALPS, TRIQS

 

 

ハイゼンベルク模型 (Heisenberg model)

固体中の電子の低エネルギー自由度としてスピン自由度のみを抽出した模型。固体の磁性を議論するうえで最も基本的な模型の一つである。スピン相互作用の形、格子構造に様々なバリエーションがあるが、特に反強磁性相互作用(スピンを反平行に揃える相互作用)をもつ反強磁性ハイゼンベルク模型はハーフフィリングのハバード模型の強結合極限として得られ、銅酸化物高温超伝導体の母物質であるモット絶縁体を記述する基本的な模型として盛んに研究が行われている。また、カゴメ格子など反強磁性相互作用と単純には整合しない幾何学的フラストレーションをもつ格子の場合に発現すると期待される量子スピン液体の研究も盛んに行われている。正方格子などの負符号問題が出ない場合に厳密な量子モンテカルロ計算を行なうことができ、それを行えるソフトウェアとして、ALPS, DSQSSなどがある。また、厳密対角化の計算が行なるソフトウェアとしてはALPS, TITPACK,SpinPack, KobePack、HΦがある。また、mVMCを用いることで、変分モンテカルロ法を用いた様々なハイゼンベルク模型の基底状態計算を行なうことができる。

関連キーワード:ハバード模型

関連ソフトウェア: ALPS, DSQSS, TITPACK, SpinPack, KobePack, Hphi, mVMC

ハバード模型 (Hubbard model)

遷移金属酸化物の電子状態を記述する理論模型としてHubbard・Kanamori(金森)・Gutzwillerらによって独立に提案された模型。最近接のトランスファーとオンサイトクーロン相互作用のみを含む単純な模型であるものの、その理論解析は難しく一次元などの限られた場合にしか厳密なことはわかっていない。強磁性・反強磁性・モット絶縁体・高温超伝導など現在の固体物理で注目されている多くの現象を記述する最も基本的な模型として盛んに研究が行われている。少数サイトのハバード模型の厳密対角化を行えるソフトウェアとして、ALPS、SpinPack, HΦがあり、HΦでは動的物理量計算及び熱的純粋量子状態を用いた有限温度計算も可能である。また、動的平均場近似を用いた計算はALPS,pyDMFTを用いて行えることができ、変分モンテカルロ法を用いた計算をmVMCを用いて行なうことができる。

関連するソフトウェア: ALPS, SpinPack, Hphi, pyDMFT, mVMC

半経験的電子状態計算

原子軌道間の重なり積分などの量を数値計算するのではなく、簡単な近似や実験によって得られたパラメータ値を利用することで電子状態計算を行う手法。大きな系の電子状態計算を高速で行うことができる。量子化学計算の分野では、ヒュッケル法(π軌道のみに着目し、重なり積分を無視して隣接原子間の軌道に関するクーロン積分・共鳴積分のみを考える)や拡張ヒュッケル法(π軌道のほかにσ軌道の効果も含める)などが代表的な手法であり、固体の分野では、実験値を再現するような強束縛モデルを利用することも行われる(Slater−Koster法など)。

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非平衡グリーン関数法

2つ以上の半無限電極に接続したナノ構造のバイアス下での量子輸送特性を計算するための手法。ナノ構造に対する半無限電極の影響を自己エネルギーとして取り込んで計算したグリーン関数から、非平衡状態の電子密度や、コンダクタンスの計算を行うことができる。

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